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「90代誤嚥死に2365万円賠償判決」に医療・介護界騒然…現役医師「訴訟回避の胃ろうで寝たきり老人が激増する」 [雑記]

恐ろしい判決内容(引用サイト)
引用サイトでは関連サイトへジャンプできるようなので、詳細を知りたい方はそちらで…。

事の背景を読まず、記事通りの内容だとすると今後怖い事になるな、と思い覚書。

以下、内容。

「90代誤嚥死に2365万円賠償判決」に医療・介護界騒然…現役医師「訴訟回避の胃ろうで寝たきり老人が激増する」


「施設職員が90代男性のゼリーの誤嚥を防ぐ義務を怠ったことなどが原因」。11月上旬、裁判所は介護施設に2365万円の支払いを命じた。過去には88歳男性がパンを誤嚥して死亡し、施設側が2490万円を支払う判決も出ている。医師の筒井冨美さんは「誤嚥による死は痛ましいものだが、入所者3人に対して介護スタッフ1人を配置するのが標準的な施設においてケアの限界もある。マンツーマン体制を敷けば医療・介護費高騰は避けられない」という――。

90代男性誤嚥死亡で2365万円賠償の衝撃

2023年11月7日、あるローカルニュースに医療・介護関係者は騒然となった。
広島県の介護施設に入所していた90代男性がゼリーを喉に詰まらせて窒息死した事例をめぐる裁判で、「死亡したのは施設職員が男性の誤嚥(ごえん)を防ぐ義務を怠ったことなどが原因」として、介護施設に2365万円の支払いを命じる判決が下ったのだ。
裁判長は、「ゼリーを配る職員は他の利用者に配膳し、男性が誤嚥する様子を見ていなかった」とした。「職員らが食事の介助などの措置を講じていれば防げた」とした上で「誤嚥を防止する措置を講じる義務を怠った責任は極めて重い」と指摘。原告である長男は「施設の責任が認められて良かった。父の死を無駄にせず再発防止を徹底してほしい」と望んだ。

SNSでは反論だらけ
愛すべき老父を亡くした長男としては、せめてもの慰めとなったと思われるこのニュースに対し、X(旧ツイッター)はどう反応したのか。主だったコメントは以下のようなものである。
・90代、ゼリーも食べられないって寿命でしょう
・「防げた」と断言した裁判長は「90代の誤嚥を防ぐ方法」を示せ
・認知症高齢者は食事禁止で胃瘻(いろう)(胃に穴をあけて栄養剤を注入して生命維持)しかない
・介護士がますますいなくなる
意外なことに判決に賛同したり、施設側を責めたりするコメントは私が検索した限り(執筆時点)では見当たらなかった。同僚の医師にも、判決内容を否定的に捉える向きが多かった。

2023年8月にも、名古屋市の特別養護老人ホームでパンを誤嚥して死亡した88歳男性に対して、施設側の安全配慮義務違反を認めて2490万円の支払いを命ずる、というニュースが報道されたばかりである。

日本人男性の平均寿命(81歳)を超えた認知症高齢者の死亡であっても「職員らが見守りを怠ったのが死因」と司法判断され、約2500万円という高額判決に介護関係者は騒然となったが、今回はさらに上の90代男性ということで、衝撃を受けているのは医療介護関係者だけではないのではないか。

「入所者:介護士は3:1」の意味
「入所者:介護士は3:1」、「最低でも入所者3人に対し1人の介護スタッフを配置する」という意味であり、特別養護老人ホームなどの施設基準でもある。これは決して、「24時間常に3:1で介護する」という意味ではない。一般的な老人ホームでは「早番/遅番/夜勤」などのシフト制が組まれており、「介護士1人で5~6人を食事介助」「食事介助中に他の入所者が転倒や失禁すれば、食事介助を中断して対応」「夜間は介護士1人で30人対応」などは、一般価格帯の老人ホームでは当たり前の勤務体制である。

今回の判例にあるような「ゼリーで窒息しかねない嚥下機能が低下した90代」に対して、裁判長が主張するような「誤嚥を防止する措置」を実施するならば、食事中は1:1で対応する必要があり、その他に入浴・調理(一般食/粥/刻み/ペースト/糖尿病食/減塩食など作り分ける)・排泄対応・リハビリ・リネン交換・清掃・夜勤・事務作業モロモロを考慮すると、ザックリ入居者の1.5~2倍の職員が必要になり、現在の介護保険制度の予算内では実現不可能だと見られる。高齢者の年金額の範囲内で実現するには、現役世代に対する増税か介護保険料値上げしかないかもしれない。

「月6000円の報酬増」と言うけれど
2023年11月、「介護職員の仕事離れに歯止めをかけるため、2024年から月6000円の報酬増」という介護職員にとって少しだけ明るいニュースがあったが、今回の判決で介護現場では帳消しにあったような雰囲気になっているのではないか。そもそも介護職の不人気や人材不足は「賃金水準の低さ」「仕事のキツさ」が指摘されているが、近年では「賃金に見合わない責任や訴訟リスク」も大きい。

かつての「医療事故」のように、近年では「介護事故」「介護ミス」という用語も一般化しつつある。ネットで「介護事故」と検索すると、トップページには弁護士事務所のホームページが複数ヒットし、そこには「88歳誤嚥死亡、○○万円判決」「83歳転倒骨折、○○万円で和解」などとあり、無料相談のフリーダイヤル番号まで載っている。

この状況下において、今回の「90代で2365万円判決」のニュースを聞けば、「だったらウチも該当する」に弁護士相談して訴訟を思い立つ利用者家族がいても不思議ではないだろう。

こうした中、介護事故裁判に備えなければならない施設側は、スタッフに対して日々の綿密な介護記録をつけることを指導しているという。例えば、「トイレで転倒」だったのが「トイレの床に座り込んでいたので声をかけると『大丈夫』と返答があった。『痛みはない』とのことなので、リビングまで同行した」のような詳細かつ防衛的な記録が求められつつあるのだ。

増える一方の介護記録/ケアプラン/サービス計画書/事故報告書の作成……。介護スタッフの仕事はこれらのほかにも、利用者家族からの「ちゃんと説明しろ!」「納得できん、金返せ!」といったクレーム対応などが増えていると関係者は口をそろえる。よって、「月6000円報酬増」があっても「月10時間サービス残業増」となれば、介護人材不足は解決しないだろう。

厳罰化で高齢者誤嚥は防止できるのか
介護訴訟では年々高額化する賠償金のみならず、2013年に特別養護老人ホームで85歳女性(要介護4)がドーナツで窒息して死亡した事例では、その後、2019年にゼリーと間違えてドーナツを配膳した准看護師が業務上過失致死剤で有罪判決を受けている。

2020年には控訴審で無罪判決を得たものの、6年超に及ぶ一連の裁判報道は確実に介護人材を減らしたと推測できる。高齢者介護に携わった者ならば、人間の老化や死亡が不可避であるように、たとえ1:1の介護であっても高齢者の誤嚥をゼロにすることは不可能なことを実感しているからである。

医師である筆者が、もし「老いてうまく飲み込む力がない高齢者の誤嚥防止」を求められたら、「胃瘻を作成することによって、声は出るが、口から食べることを諦めてもらう」もしくは「気管切開を作成して、口から食事はできるが、声を出すことを諦めてもらう」ことの二択、それでも困難なら胃瘻と気管切開の両方とならざるをえないだろう。

その費用の多くは後期高齢者医療制度によって現役世代の社会保険料から賄われているので、本人や家族の懐はさほど痛まない。
胃瘻による延命そのものは比較的容易だが、進行する身体機能の衰えは避けられない。その結果「推定300万人」「ダントツ世界一」という寝たきり老人を日本は量産してきた。

「全くものも言えず、関節も固まって寝返りすら打てない、そして、胃瘻を外さないように両手を拘束されている認知症高齢者」は日本の医療・介護の現場ではごく普通の風景である。

今回の判決によって、介護施設は次のように心の中で思っているだろう。
「ゼリーなら食べられそうだと思ったけれど、誤嚥の可能性の高い人は、胃瘻にしないと裁判で負けてしまう」「寝たきりの方が、徘徊(はいかい)老人より手間かからないし介護報酬も大きい」「公費なので家族も賛成するはず」
そうした対策により、統計上の誤嚥事故件数は減り、介護施設が非難されることはなくなる。ただ逆に、日本の寝たきり老人数や現役世代の社会保障費負担が増大するだけだ。

出生数70万人時代に見合った高齢者福祉の見直しを
2023年10月、岸田文雄政権は大々的に「所得税4万円減税」を喧伝する一方で、10月24日の厚生労働省の年金部会では「想定外の少子高齢化」を理由に「年金支払期間を5年間延長」「2025年に法案成立」がコッソリ提案している。実行されれば、現役世代にとっては約100万円のさらなる社会保障費負担となる。「異次元の少子化対策」も、原資は「医療保険料」に上乗せする案が有力だが、結局のところ「現役世代から集めて返すだけ」という疑念は晴れない。

厚労省が11月7日公表した人口動態統計によると、2023年1~6月に生まれた赤ちゃんの数は前年同期比4.1%減の35万2240人だった。少子化傾向が変わらなければ、2023年の出生数は約70万人となる可能性が高い。一方、2025年には「団塊の世代(1947~50年生まれ)が全て後期高齢者」となるが、医療水準を落とさないまま1学年200万人の老後を70万人の世代で支えることは不可能である。

「北欧には寝たきり老人はいない」「他の先進国では高齢者が口から食べられなくなったら自然に見送る」とは10年以上前から報道されているのは事実だが、日本ではほとんど浸透していない。

端的に言って「食事をうまく飲み込む力がない」とは自然な老化現象である。もちろん「後期高齢者の誤嚥による死亡」は痛ましいことであり、その中には明らかな「介護士のミスや怠慢」もあるかもしれない。家族の立場になれば、極力避けたいことだ。しかし、前述したように現状の高齢者3人に介護スタッフ1人という配置の中ではケアには物理的な限界があり、結果的に「誤嚥」を防げないこともありうる。そうした事故が増える中、「誤嚥=老衰」と考えてもしかたない案件もあるのではないか。

私は以下の内容を岸田政権にぜひ実践してほしい。まず、「安易なバラマキ(+コッソリ社会保険料値上げ)」をやめること。そして、実現不可能な医療・介護水準を求める司法判断に再考を促し、身の丈にあった高齢者福祉を提案すること。その上で、死生観の見直しや、穏やかな終末期についても広く日本社会全体に再考を促すこと。
こうしたことこそが、めぐりめぐって真の少子化対策となる。そう信じて疑わない私と同じ思いを胸に抱く医療・介護関係者は少なくない。


---------- 筒井 冨美(つつい・ふみ) フリーランス麻酔科医、医学博士 地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書) ----------


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